読売報道(8月12日付)のデータは酷すぎる。-志願者数は状況をミスリードするだけで正確な理解を生まない

8月12日付けで読売新聞が、「医学部入試、77%で合格率に男女差」という記事を掲載した。

読売記事のいう

読売新聞が医学部をもつ全国81大学に男女別の志願者数や合格者数などを尋ねたところ、回答した76校の77・6%に当たる59校では、今春の一般入試で男子の合格率が女子より高かったことが分かった。

 自体、そもそも男女の合格率がぴたり一致することの方が稀なわけで、こうした本文の書き方は作為的な印象を与えかねない危うさがあると感じられる。

しかし、今回問題なのはそこではない。

本文中にある次の記述は決して見落とせない。

男女ごとの全志願者に対する合格率は、男子8・00%に対し女子6・10%と1・9ポイント低かった。

読売新聞は今月初め、東京女子医科大を除く81校にアンケート方式などで▽選抜方法▽過去5年の一般入試における男女別の志願者数と合格者数▽性別などによる得点操作の有無――を聞いた。

 つまり、読売の調査は、志願者数と受験者数は異なるという点を見落としているという重大な疑いがある。これは次の3点において、実際の合格率と乖離した数値をはじき出す可能性があり、状況を誤解させかねないものである。

  1. 大学の一般入試には前期と後期の2つの試験がある。後期日程の方は、すでに前期日程で合格した者は受験しない。しかし志願の段階では、前期日程と後期日程で受験する大学を同時に申請するため、後期日程は志願者よりも受験者が大きく減少する。従って、後期試験において、合格者数/志願者数を計算しても、実際の合格者数/受験者数とは全く異なる値が出る。
  2. 国公立医学部の中には第一段階選抜(いわゆる足切り)をセンター試験の得点に基づいて行う大学があり、基準点を下回る受験生は2次試験に進めない。このような受験生は志願者数には含まれるが受験者数には含まれない。(センター試験の得点と定員に対する倍率で行われるのが通常で、ここに男女の区別は起こりえない。)
  3. そもそも志願者数と受験者数の差は、第一段階選抜、他日程での合格者、当日欠席者の3種類がある。合格率=合格者数/志願者数を比較するということは、そもそも当日試験を受験していない者まで含めて男女の合格率の一致を基準とするもので全く理解不能である。比較するべき合格率はあくまでも、「試験を実際に受けた人数」=「受験者数」で考えるのが当然ではないのか。

また、ハフポストの記事に対して指摘したのと同様、そもそも前期日程と後期日程は、試験科目や志望動向、定員などが全く異なるため、それらを合算して集計すると状況を見誤らせる危険性が高い

もう一つ。私学の順天堂大医学部がランキングの上位に挙がっているが、この大学だけ「入学者」のみを公表している。異なるデータを同じランキングに並べて比較するのはまずい。しかも私学の場合、合格者と入学者に開きがある場合も多く、他の大学のデータと一律に比較するのは不適切だ。

実例で検証してみる

実際に検証してみよう。

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読売の報道の上位10位以内のうち、男女別のデータが入試統計として公開されている国公立大学が6校ある。上の赤囲みの6校である。この大学のデータを使って、読売報道にある合格率の計算がどのように行われているのか、数値で検証してみる。

北海道大学医学科の場合

H30年度の入試統計資料は以下のpdfにある。

https://www.hokudai.ac.jp/admission/h30shigansha_goukakusha.pdf

医学科は前期日程のみの募集である。

  • 男性志願者261名、男性合格者87名なので男性「合格率」33.33%
  • 女性志願者80名、女性合格者15名なので女性「合格率」18.75%
  • 女性「合格率」を1とすると男性「合格率」は1.78

つまり読売報道の数値は、合格者/志願者で計算されていると推測される。

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実際に合格者/受験者で計算すると、女性合格率を1とした場合の男性合格率は1.73となる。

三重大学医学科の場合

H30年度の入試統計資料は以下のpdfにある。これから明らかなように、三重大学では第一次段階選抜が行われたことがわかる。

http://www.mie-u.ac.jp/exam/01ippan30.pdf

医学科は前期日程と後期日程で募集されている。

  • 前期と後期の男性志願者の総数は397名、男性合格者総数70名なので男性「合格率」17.63%
  • 前期と後期の女性志願者の総数は160名、女性合格者総数16名なので女性「合格率」10.00%
  • 女性「合格率」を1とすると男性「合格率」は1.76

三重大学の受験者数で見た合格率は次の通りである。

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  •  前期の合格率は、女性を1とすると男性1.71
  • 後期の合格率は、女性を1とすると男性0.47

になる。あまり好ましくないが、前期と後期の受験者数と合格者数を合算すると

  • 前期と後期の男性受験者数の総数は275名、男性合格者総数70名なので、男性合格率25.45%
  • 前期と後期の女性受験者数の総数は84名、女性合格者数総数は16名なので、女性合格率は19.05%
  • 女性合格率を1とすると男性合格率は1.33となる*1

 奈良県立医科大医学科の場合

H30年度の入試統計は次のpdfである。

http://www.naramed-u.ac.jp/university/nyushijoho/igakuka/documents/h30igakuippankekka.pdf

医学科は前期日程と後期日程で募集されている。

  • 前期と後期の男性志願者数の総数は838名、男性合格者総数64名なので、男性「合格率」7.64%
  • 前期と後期の女性志願者数の総数は292名、女性合格者数総数は17名なので、女性「合格率」は5.82%
  • 女性「合格率」を1とすると男性合格率は1.31

これは読売報道の値とはうまく合わなかった。とくに女性の数値が読売報道よりも高く出ている。原因はよくわからない。しかし受験者では志願者をベースに計算しているのは間違いがない。そうでなければ合格率が読売報道のように10%を大きく割り込むことはない。実際、受験者数は以下の通りである。

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  •  前期の合格率は、女性を1とすると男性0.91
  • 後期の合格率は、女性を1とすると男性1.36

あまり好ましくないが、前期と後期の受験者数と合格者数を合算すると

  • 前期と後期の男性受験者数の総数は380名、男性合格者総数64名なので、男性合格率16.84%
  • 前期と後期の女性受験者数の総数は123名、女性合格者数総数は17名なので、女性合格率は13.82%
  • 女性合格率を1とすると男性合格率は1.21となる*2

佐賀大学医学科の場合

佐賀大学のデータについて取り違えをしてしまいました。詳細はこちらにまとめ、お詫びするとともに本記事での記述は撤回させていただきます。

金沢大学医学類の場合

H29年度の入試統計は以下のpdfである。

https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/04/H29nyusi-kettka.pdf

既に計算の例は上で出ているので結論だけ書く。

読売報道は、合格者/志願者の値を計算しているが、合格者/受験者で計算すると、男性合格率は42.29%、女性合格率は22.73%となり、女性を1とすると男性は1.86となる。読売報道よりも少し値が上昇する。

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山口大学医学科の場合

H29年度の入試統計は以下のpdfである。

http://nyushi.arc.yamaguchi-u.ac.jp/chousa/dat/H29/H29jitusijoukyou.pdf

前期と後期で募集されている。結論だけ書く。

読売報道は、前期と後期の値を合計して合格者/志願者の値を計算している。好ましくないが、前期と後期の値を合計して合格者/受験者で計算すると、男性合格率は15.13%、女性合格率は10.18%となり、女性を1とすると男性は1.48となる。読売報道よりも少し値が下がる。

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*1:ハフポスト式に男性を1とすれば女性0.75となりハフポスト報道と符合する。

*2:ハフポスト式に男性を1とすれば女性0.82となりハフポスト報道と符合する。