ハフポストの医学部合格率に関する記事も慎重に読むべき
昨日の朝、石渡嶺司氏の記事には問題点があり撤回するべきとの記事を書き、その中で、医学部合格率の男女比について調べたデータを示した。
それと同じ時期に、ハフポストが、次のような記事を掲載した。
この記事では、
ハフポスト日本版は、医学部のある81大学(共学)に、2018年度の医学科一般入試の男女別の受験者数と合格者数を請求、回答のあった76大学のデータを元に、男女別の「合格率」(合格者数/受験者数)を割り出し、さらに男子の合格率を「1」とした場合の女子の合格率を比べた。医学部でも、保健学科や看護学科など、医師養成以外の学科は外している。
として、H30年度の国公立・私立を含めた76校分のデータを掲載している。全体として、合格率に男女比があることを問題視する記述になっているように見える。
しかし、この記事のデータも注意深く見る必要がある。上の説明では、「一般入試」と書かれているが、全国の国公立医学部医学科では、前期日程のみ試験を行う大学と前期日程・後期日程の両方で試験を行う大学がある。両者の試験は、もちろん問題が違うが、試験科目や配点、募集定員などが異なることが多く、従って受験者層も変化するため、一律に比べるのは危険である。
旭川医科大の例
旭川医科大の一般入試は前期と後期の両方で試験を行う。
センター試験の配点は、900点だが、二次試験の試験科目は、前期が数学(100)+外国語(100)+集団面接(150)、後期が理科(200)+集団面接(150)と全く異なっている。
募集定員も前期40名、後期15名と異なる。
ハフポスに従って、男性合格率を1とした女性合格率を計算すると
- 前期日程における男性の合格率は30/248、女性の合格率13/124。男性の合格率を1とすると女性の合格率は、0.867
- 後期日程における男性合格率は13/137、女子の合格率は2/46。男性の合格率を1とすると女性の合格率は、0.458
となる。しかし、これはハフポストが掲載しているデータにある旭川医大の合格率の比0.79には一致しない。おそらくハフポストの計算は、前期日程と後期日程の受験者と合格者を合算して計算しているのではないかと思われる。
- 両者を合算すると男性の合格率43/385、女性の合格率15/170。男性の合格率を1とすると女性の合格率は、0.790
となるからである。しかし、この計算方法は危ういやり方である。
後期日程の定員が極端に少ないので、たとえば15名の合格者のうち、男性13名女性2名だったものが、男性12名女性3名になったとしてみよう。
- 後期の男性合格率は12/137、女性の合格率は3/46となり、男性を1とすると0.745
と0.458から大きく上昇する。また、前後期を合算では
- 男性合格率42/385、女性の合格率は16/170となって、男性を1とすると0.863
とやはり上昇する。つまり、後期の女性合格者の数が1名変わっただけで、この男女比の値は大きく影響を受けることがわかる。
実際には合格率自体、女性の合格者が1名増えるだけで大きく影響されてしまう。前期でも女性の合格者が1名増えて、男性の合格者が1名減ると
- 男性合格率29/248、女性合格率14/124で男性を1とすると0.966
となる。これは国公立の医学部医学科全体でみても多かれ少なかれ考えうる状況である。その理由は、受験者に比べて合格者が非常に少ないことにある。
さらに、旭川医大の場合、2017年は女性の合格率の方が高い。
この例からもわかるように
- 合格率を前後期で合算した値で集計するのは、形式の異なる試験をまとめて比較していることになるため、実態をミスリードしかねない。
- 合格率の値は、女性の合格者の僅かな増減に鋭敏に反応する場合があるため、注意深く取り扱わなければならない。
- 合格率の値は単年度で見るのではなく、経年で見る必要がある。男女比が年ごとに変化している場合もあるから2018年のデータだけで即断するのは危険である。
しかしハフポストの記事がそのことに十分注意を払っているとは言えないように思う。
細かい疑問(北海道大医学部医学科の例)
例えば北海道大学医学部医学科は次のようなデータである。
この場合、男性合格率を1とした女性の合格率は0.578になる。(男性合格率87/248、女性合格率15/74)しかしハフポストのデータでは、北大は0.56となっている。微妙にずれている。例えば、志願者で見ると、男性261名、女性80名なので、合格率を志願者ベースで計算する(男性87/261、女性15/80)と、0.563となる。とすると0.56は志願者数で計算しているのだろうか?
細かい疑問(佐賀大医学部医学科の例)
佐賀大学のデータについて取り違えをしてしまいました。詳細を以下の記事にまとめ、お詫びするとともに、本記事の記述は撤回させていただきます。