「国語・小論文・総合問題」を「記述式」と拡大解釈するミスリード

国立大学協会が記述式試験に関する考え方を発表したことを各紙が伝えている。その中に、次のような文言が入っている。

朝日:「国立大の2次試験で、国語などの記述式を導入しているのは募集定員の約4割にとどまっており、」

読売:「国立大2次試験では現在、記述式問題を課しているのは募集人員の約4割にとどまっている。」

毎日:「国立大の2次試験で記述式を課している大学は募集人員ベースで4割にとどまっており、」

産経:「国立大の2次試験で現在、記述式問題を課しているのは募集人員の4割程度にとどまっている。」

 またNHKも次のように伝えている。

NHK:「文部科学省によりますと、国立大学の2次試験で記述式を導入しているのは現在39.1%にとどまっていますが、」

 

これらの報道は、国公立大学の二次試験の現状を著しくミスリードする内容である。まず、この報道の根拠は、文科省が発表した「広大接続改革の進捗状況について」と題された文書にある次のデータに基づいていると考えられる。

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http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/08/__icsFiles/afieldfile/2018/04/25/1376777_001.pdf


ここにはっきりと明記されているように、この数字は、

「国立大学の二次試験においても、国語、小論文、総合問題のいずれも課さない募集人員は、全体の約6割にのぼる。」

ということである。ところが上の報道では、「記述式試験を課しているのが4割」という記述にすり替えられてしまった。具体的な科目名が限定されていたはずなのに、報道される際に、範囲が拡大されてしまったのである。(NHKに至っては、「募集定員ベース」という情報も抜け落ちたあげく、39.1%というのはおそらく前期試験のデータである。)

 

例えば、国公立理科系学部の前期日程の中で、国語を試験科目として課しているのは東大と京大しかない。もちろん小論文や総合問題を課す大学も前期日程では極めて少ない。したがって、上記の4割という数字の中に、大部分の国公立大学理系前期日程の募集定員が含まれていないことになる。

 

例えば河合塾の入試速報サイトに行って前期日程の解答例を見てみるとよい。

国公立理科系に課される数学の試験の場合、完全に白紙の解答用紙に答えまでの導出過程をすべて記述させる形式が一般的である。

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例えば、上は、岐阜大、名古屋工業大、大阪市大、東大、京大の解答例の一部をスクリーンショットしたものである。こうした国公立二次試験の数学を記述式でないなどと判断するとしたら、その判断は明らかに誤りである。そのような分類をしてしまったら妥当な議論などできようはずもない。

 

国公立理科系の二次試験では、英語や理科も課されることが普通である。これらの科目は、マークシート方式で実施されているところはおそらくほとんどないと思われるが、解答の形式が選択式や答のみを記述する形式が中心となっている大学も多い。しかし多くの大学で、一部記述式の解答を求めたり、理科では解答用紙が数学同様ほぼ白紙なものが与えられてそこに記述する形式の大学もある。

 

例えば先ほど例に挙げた大学の場合、

岐阜大は、英語はすべて選択式、物理は導出過程を書かせる記述式、化学は答のみを書かせる形式だが記述式もいくつか入る形式、生物も答のみを書く形式が中心だが、比較的長い記述を求める問題が数問入る形式である。

大阪市大は、英語は選択式と和訳・内容把握・英作文などの記述式が混じった形式、物理は導出過程を書かせる記述式、化学は答のみを中心とし、いくつか記述式が含まれる形式、生物や地学は答のみが中心だが、やや記述量が多い問題が含まれる。

名古屋工大は、英語は選択式が中心だが、英作文も含まれる形式、物理・化学いずれも答のみを書かせる形式が中心だが、一部に描図や導出過程の説明を求める形式である。

 東大は、英語では要約問題、英作文、和訳などの記述式問題と選択式問題を組み合わせた形式、物理はほぼ白紙の解答用紙に記述する形式、化学・生物・地学は答のみを書かせる問題もあるが、導出過程や論述を求める問題も多く、解答用紙はほぼ白紙のものがつかわれる。

京大は、英語では選択式は少なく、和訳と英作文で構成される形式、物理や化学は答のみを書かせる問題が中心だが、描図や導出過程を書かせる問題も近年は徐々に出題されるようになっている。生物・地学には字数の多い論述が多数含まれる。

 

例えば河合塾の入試速報サイトなどを見れば上記のことはすぐに確かめられる。 

これらの実例からもわかるように、国公立の二次試験において、数学はもちろんのこと、英語や理科でも記述式問題は多数取り入れられており、これらの大学はすべて「記述式」問題を出題している。

 

そもそも、「国語・小論文・総合問題」に科目を限定して「記述式」云々の議論をすること自体が妥当ではない。しかしそれを「記述式問題」一般に拡大解釈してしまっては、実際の入試状況をミスリードするものになり極めて不当であるといわなければならない。文科省の担当者が意図的にミスリードしているのか、それとも単に現状をしらないだけなのか、取材する側も意図的に歪曲した報道をしているのか、それとも現状を調べようともしていないのか、いずれにしてもこのような議論はまともでない。

 

ちなみに、国語の問題でも選択式の設問はあるし、総合問題という形式をとっていても、実質的には個別科目の問題を並べただけという出題もあり、必ずしも「複数教科を総合して学力を判断する」という説明が適切とは限らないことにも注意したい。