合格率から得点操作を推定するべきではない

医学部の男女別合格率の比をランキング化して、医学部入試における男性優遇の得点操作を行っている可能性を示唆する議論が盛んである。しかし、本質的にそうした議論は極めて慎重に行わなければならず、また安易に大学をランキング化して万一誤ったイメージを与えてしまうことになれば、大学の名誉を傷つけることになりかねない。

医学部医学科の入試データのうち、だれにでも見られる形で公開されている25国公立大学について、合格者数/受験者数の男女別経年変化は、次の記事にまとめた。(手作業の集計なので細部に計算ミスや入力ミスもあるかもしれない。)

ハフポストや読売が報じた合格率に関する報道の問題点も指摘した。

ここまでのデータはすべて医学部医学科の前後期一般入試のデータである。

この記事では3つのデータを紹介する。

  • 東京工業大学前期一般入試の全学類合計でみた男女別合格率
  • 京都大学工学部前期一般入試の全学科合計でみた男女別合格率
  • 複数の国立大学における保健学系学科の前期一般入試における男女別合格率

の3つである。

東京工業大学前期一般入試全学類合計の男女別合格率

工学系は男性受験者が多く、そこに男性優位の得点操作などありえないことが指摘されていた。石渡嶺司氏が行った入学者の男女比が批判されたひとつの根拠でもある。今回は、ハフポストや読売が行った合格率のデータを見る。

下記から入試統計が見られる。

ここから全類の合計を整理すると次のようになる。

ちなみに、この表からもわかるように、東工大の場合にも男性と女性の受験者数の比はおおむね4:1に近く、また難関国立大であることからも、医学科との比較としては一定の意味がある。

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このデータを見れば明らかなように、東工大は、ハフポストのランキングでも下側に位置し、読売報道のランキングに登場しうる値になっている。

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2018/08/13追記:読売報道との比較でミスをしました。H30年度の数値1.78はランキング10位以内に入りますが、H29年度1.28はランキング10位以内に入りません。図を修正しました。

 

こうした数値をみれば明らかに、男女別の合格率が得点操作を推定するために決して十分なものではなく、むしろ極めて慎重な取り扱いを必要とする数値であることがわかるのではなかろうか。

もちろん、医学科と工学系では定員も違うし、受験者の学力層も違う。また必ずしも要求される学力も同じであるとは言いにくい部分もあり、受験者の男女の学力分布が同じようなものになっているかどうかも明らかではないことには注意しなければならない。

京都大学工学部前期日程一般入試全学科合計の場合

東工大よりもさらに女性受験生の割合が低いのが京都大学の工学部である。

入試統計は以下で公開されている。

入学者選抜実施状況 — 京都大学

なお京大は第一段階選抜合格者の男女別内訳を公開しており、これは実際の受験者とは多少の乖離がある*1。また工学部も学科別に希望を出して出願する形式なので、本来は学科ごとに見た方が良いかもしれない点は東工大と同じである。

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訂正(2018/08/14):H29年度の合格者総数を間違えていたので訂正しました。

ここでも概ね男性合格率の方が女性合格率よりも高い傾向が見受けられることを見れば、やはり合格率から、男性優遇の得点調整が行われているかのごとき予断を与えることには慎重でなければならないことがうかがえる。

いくつかの国立保健学科の場合

男性受験生よりも女性受験生が多い分野はあまりないと思われる。(文学部などではありうるかもしれないが、理系ではおおむね男性の受験者が多い。)いくつかの国立大学には保健学科があり、ここはおおむね女性の受験者が多い。ここでも男女別の合格率を調べてみることができる。

ただし、保健学科は医学科とは比べ物にならないほど倍率が低く、しかも、試験科目が文系並みの場合もあるので、これも一概に医学科と比較することはできない。しかし、女性受験者が多い学科で、男女別の合格率を見ると何がわかるかということの参考資料にはなる。

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これらのデータを見ても、概ね女性の方が合格率が高くなっていることがわかる。

おそらく保健学科で女性に加点しているなどということはないと思われるので、やはり男女別の合格率というのは慎重に取り扱うべきだということがわかるのではなかろうか。念のため注意しておくが、医学科に比べて女性合格率がそれほど高くないという見方もある。しかし、保健学科の倍率を考えればわかるように、医学科よりも倍率が低いために、学力分布のどこまでが合格ゾーンに入るかが全く異なるので、合格率の比の大きさを直接比較するのはやはり慎重でなければならない。

 

 

*1:二次試験の受験を許可された者で当日欠席した者が差分にあたる。