80字で測れることは何か?

新共通テストに関して、国大協が「記述式は不要」という見解を出したという一部報道(その後国大協側は否定)があった。

News Picsというサイトでは、この記事に関してこんなコメントが付いている。上の方から順番にいくつかを抜き出してみる。

西田 亮介  東京工業大学 准教授

メンツと落とし所の問題なのだろうけど、もはやここまでくれば新テスト国語に記述式必要ないのでは。80文字以下って、Tweet以下ですよ…。

 

早崎 公威 忠北大学 天文宇宙科学科 助教

文科省が、解答文字数として80文字超と80文字以下の二つの問題を出題する提案をしたとあるが、そもそも80文字という基準は何を根拠にしているのだろうか。少なくとも学力を測定するのに十分な文字数であるとは言えないだろうし、採点コストを考えてのことなら、記述式テストの導入は現実的ではない。

 

Mori Riku 次世代グローバル政策研究フォーラム 代表
「80字を超えるものは実施不要」というのなら、従来のマーク方式から変更する必要はない。字数制限80字の記述問題で何が図れるというのだろう。採点者の負担が増えるだけ。

 

塩本 高之 恵寿総合病院 臨床検査技師
思考と知識、大学で学問をする上でどちらも大切です。しかしながら、知識は後付けしやすい、ググればわかる、ということを考えると、やはり思考をとるべきなのかなと思います。(採点コストは考えず)その観点から考えると、まず記述問題はやはり必要なのではないでしょうか。
ではどの程度の文量が必要か、ということになりますが、そこは詳しくないのでわかりません。少なくとも80字の小論文問題に遭遇したことはありません。(子供の日記じゃあるまいし……)

 

中村 卓 学力工房 代表
そ・ん・な・の、無意味!まず、採点ならば、外部(例えばBenesseなど)で今現在、全国規模の記述の採点をしている業者があるわけですから、自前主義を捨てれば、出来るんです。字数なんか関係ない。これを考えている人は、自分たちの狭い了見だけで考えていて、この日本、世界で現在行われている実際のオペレーションを何も見ていない。所詮、見かけの変化を出すためだけにやるならば、大いなる無駄、なので、今のままでいいです。話にならないレベル。80字なんて、小5でも書きます。普通に。

 

Ichino Misato 編集者/元教師/東京大学大学院 情報学環 在学中

①最初の設定で、なぜ80文字を基準にしたんでしょうか。
AIで採点できそうな文字数だから?
過去の何かの実績から?
80文字って、論理力ではなくて、定型の文を書けるかどうかになってしまうのではと思います。

②80文字が不要という理由は?
議論の過程を見せてくれないと、何なのか理解できないです。

国語がそうなると、他教科にも影響してくるので、本当に早く決めてください...。

 

石川 健 株式会社エディトリアルハウス 代表

記述式問題の導入は良しとしても、出題側の都合が優先されているような感じです。記述による解答が80文字以内とは、意味合いを逸脱しております。簡潔明瞭に記述することは必要ですが、80文字で何を表現できるのでしょう。

 

Matsunaga Masaki 九州大学 QREC 特任准教授

そんなもん「記述」と言わん(苦笑)。がっつりエッセイ・面接できないんだったら、信頼性妥当性が担保されたペーパーテストにしましょうよ。

 

榊 礼武 自営業 事業主

tweetより短いってどうよ。こんな試験の為に頑張っている学生が可哀そうで残念です。論理的思考に基づく長文記述こそ、社会に出たときに役立つスキルなのに。でも、1次試験だから、記述要らないのか。だったらマークシートのみでいいんじゃないの?

 こういうコメントをする人は、実際の国公立大学の二次試験がどのような形式で実施されているかということについてほとんど何も知らないのではないだろうか。一度、河合塾なり駿台なり代ゼミなりの入試速報サイトに行って、実際にどういう問題が出題されているのか調べてから発言した方が良い。

 

例えば、東大の国語の試験第一問は文理共通の問題だが、1個1個の小問は、おおよそ60字~80字前後の字数でしか記述できない形式である。最も字数の多い設問でさえ120字。ツイッターの140字よりも長い記述を求める設問はない。京都大学の国語第一問でも、小問ひとつひとつは概ね100字~120字程度の記述である。

 

ではこのひとつひとつの小問、特に東大現代文第一問の小問1個では、思考力・表現力はなにも測れないというのであろうか。課題文における筆者の主張の根拠を説明したり、筆者の主張の内容を説明する記述式問題において、80字というのはごく一般的かあるいは一般的な字数よりも少し少ない程度である。多くの現役生が最初に記述式模試を受けて十分に点数を取れないことが多いのは、無駄を削り、必要なことは漏らさず盛り込んで解答をまとめるという作業が、決して低いハードルではないことを意味している。これは、思考力や表現力を問うために十分に意味のある出題であると言えるだろう。そして実際に国公立の二次試験では、その範囲で的確な出題をする努力が重ねられ、実際大部分ではそうなっている。

 

問題なのは字数ではない。何を問うかである。そのことが十分に理解できていない人は、あまり安易な発言で議論を歪めないで頂きたいと思う。